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東京高等裁判所 昭和48年(う)958号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人山本栄則、同吉岡桂輔、同近藤節男および同西村寿男が連名で作成した控訴趣意書に記載してあるとおりである(ただし、弁護人は、公判廷において、論旨第三点の一の(3)は、原判示第三の(二)の事実について、事実の誤認をも主張するものである旨述べた。)から、これを引用する。これに対し、当裁判所は、つぎのとおり判断する。

一、控訴趣意第一点(法令の適用の誤りの主張)について。

所論は、原判示第二の(一)および(二)の罪は、包括一罪または観念的競合の関係にあり、一罪として処断すべきであるのに、これを併合罪とした原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の適用の誤りがある、というのである。

そこで、原判決を検討してみると、原判決は、罪となるべき事実第二の(一)において、被告人が、昭和四七年一一月一六日ころ、東京都渋谷区代々木四丁目五三番八号の当時の被告人方において、覚せい剤粉末〇・四三七グラムを所持した事実、同第二の(二)において、被告人が、同日ころ、群馬県伊勢崎市今泉町一、二六〇番地伊勢崎警察署内において、覚せい剤原料粉末〇・七六一二グラムを所持した事実をそれぞれ認定している。そして、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示第二の(二)の事実は、被告人が、昭和四七年一一月一六日午前九時四〇分ころ、原判示第二の(一)記載の場所で逮捕され、同日午後三時ころ伊勢崎警察署に押送されて来たときに被告人のポケツト内に覚せい剤原料を所持していたのが発見されたものであることが認められ、そうだとすれば、被告人は、原判示第二(一)記載の日時場所において、すでに右覚せい剤原料を所持していたものと認むべきことは、所論のいうとおりである。しかし、関係証拠によると、原判示第二(一)の覚せい剤は、右日時場所において家宅捜索を受けた際に、テレビの上から発見され、押収されたものであることが明らかであり、他方原判示第二(二)の覚せい剤原料は、前記のとおり、被告人がポケツトの中に所持していたものであるから、右家宅捜索の時点において、同じ家屋内で、原判示第二(一)の覚せい剤と同第二(二)の覚せい剤原料を所持していたとしても、所持の態様に差異があり、これらを一か所にまとめて所持していた場合のように、その全体を一個の所持と見ることはできず、それぞれ別個の所持と評価すべきものである。原判示第二の(一)および(二)の各罪を併合罪として処断した原判決には、法令の適用の誤りは存しないから、論旨は、理由がない。

二、控訴趣意第二点(事実の誤認の主張)について。

所論は、原判示第一の(三)の事実につき、原判決には、被告人が、原判示覚せい剤を、原判示の行為に対する謝礼として譲り受けた旨認定した点および譲り受けた場所を被告人の居住していたクラブ「夢」であると認定した点において、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある、というのである。

しかし、原判示第一の(三)の事実は、所論指摘の点を含めて、原判決挙示の関係証拠により優にこれを認めることができるのであつて、所論指摘の被告人の昭和四七年一一月二二日付検察官、同年一一月二七日付司法警察員(記録一八五丁以下)、鈴木昌男の同年一一月二六日付(同六〇丁以下)、同年一一月二八日付司法警察員に対する各供述調書(謄本)のうち、右認定に反する部分は、他の関係証拠、とくに被告人の昭和四七年一二月二日付検察官および鈴木昌男の同年一二月一日付検察官に対する各供述調書(後者は謄本)と対比すると信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。原判決には、原判示第一の(三)の事実につき事実の誤認はなく、論旨は、理由がない。

三、控訴趣意第三点のうち事実の誤認を主張する部分について。

所論は、原判示第三の(二)の事実につき、原判決が覚せい剤取締法違反(覚せい剤の譲渡)の幇助罪の成立を認めたのは、事実を誤認したものであるというのである。

しかし、原判示第三の(二)の事実は、原判決挙示の関係証拠により、優にこれを認めることができる。所論は、被告人が鈴木に声をかけた時には、既に鈴木は谷中らに覚せい剤を譲渡する意図を抱いていたのであるから、被告人の発言が鈴木の覚せい剤譲渡の実行行為を容易にするという幇助行為になり得るか疑問であるというのであるが、被告人が鈴木に声をかけた時には、鈴木は、なにびとかに覚せい剤を譲渡する意図を有していたが、谷中清に譲渡したのは、被告人にすすめられたためであることが原判決挙示の関係証拠によつて認められ、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。右事実につき、被告人に覚せい剤取締法違反の幇助罪の成立を認めた原判決には、何ら事実の誤認はないから、論旨は、理由がない。

四、控訴趣意第三点のうち量刑不当を主張する部分について。

所論は、原判決の量刑は重きに過ぎ、被告人に対しては、刑の執行を猶予するのが相当である、というのである。

そこで、原審記録を精査し、当審における事実取調の結果を合わせて考察するに、本件各犯行の動機、罪質、態様、犯行の回数、被告人の処分歴に徴し、被告人の刑責は重く、本件に現れた被告人に有利な、または同情すべき事情を充分に考慮しても、原判決の量刑が不当に重いということはできない。論旨は、理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

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